Wednesday, June 30, 2010

ビクトリア

6月というと・・・・・・。今となっては懐かしい思い出。

1996年の暮れにカナダに渡った私は、97年にカナダへの永住権申請を始めた。一言に申請とは言っても、まず申請書をカナダ移民局に出すまでの書類集めが膨大。日本とカナダでの犯罪歴証明書、日本で受け取った過去の源泉徴収表、預金残高証明書、日本で行った学校の卒業証明書・成績表などを取り揃えて、すべてを英訳したもの。英訳も公認翻訳者の印が押されてなければならないと、何から何まで細かな決まり。書類を揃えるだけで3ヶ月くらいかかった。

97年の夏にカナダ移民局に申請書を提出し、そこから待つこと数ヶ月。当時住んでたところはバンクーバー島のビクトリア。そこで1年半、カレッジに通いながら、そこで知り合った日本人のギャル友達と楽しく遊んだ日々。とらわれのない暮らし、身軽で、何をしても大きな責任や重圧のない日々。ビクトリアは住みやすくて景色が抜群の海辺の町で、なんだか夢を見ていたような日々でもあった。そのうち友達の一人がオーストラリアの大学に進学し、もう一人がボストンにジャズを勉強しに行き、一人は結婚のためカリフォルニアへと夢を追って行くことになり、私もそろそろ海辺の町とおさらばしなければならないならない時が来たと思うようになった。

移民局のお役所仕事はとにかく時間がかかる。第1次書類申請にパスしたかどうかの返事が来るまで数ヶ月。書類に不備などがあった場合には比較的早めに通知が来るというので、便りがないのはいい知らせだった。カナダへの永住権審査は年々厳しくなっていて、私が申請する直前に一段と厳しくなったので保障はできないと移民コンサルタントに言われた。第1次審査に通ったことを知り、次はシアトルのカナダ領事館での面接。その面接にもさらに待つこと数ヶ月。先の見えない将来を信じながら、とにかく面接のチャンスを待つのみ。その間私は、友達との別れを惜しんだり、映画に行ったり、本屋やスターバックスで時間をつぶしたり、ビクトリアのハーバーを歩いたり、心の中で「ロングバケーション」をやっていた。

1998年、6月のある日、移民コンサルタントから電話が来た。「いい知らせよ、シアトルのカナダ領事館からついに連絡が来たのよ。来週、面接でシアトルに行くことになったわよ。」と。

面接時間は朝の8時半。前日にシアトルに着いて1泊しなければならない。すぐにホテルと高速ボートの予約をした。その後で友達と会って、シアトル行きの話しをした。私よりずっと年上のイギリス人のジェントルマン。旅慣れしていて、シアトルのことを良く知っていた。「ホテルはどこを取ったの?」と聞かれた。「だめだよ、領事館からそんなに離れたホテルは。万が一のことを考えたら、ホテルはできるだけ領事館に近いほうがいい」と言われて、彼が旅行代理店までホテルの変更に一緒に行ってくれた。

シアトルに到着。この時を1年も待っていたというのに、今になって緊張している。後戻りのできないところまで来てしまった。そういえばカナダへのワークビザの面接を受けた友達は緊張で足が震えたと言っていた。ホテルにチェックインして、翌日の面接に備えてカナダ領事館まで歩いてみる。目と鼻の距離。その時になって、アランの思いやりあるアドバイスにすごく感謝した。

翌日。面接は午前8時半。書類をすべて用意して、きちんとした格好で8時20分にカナダ領事館に到着。愛想なくにこりともしない受付のオバサンに書類を提出した。

「パスポートは?」と聞かれた。怒ったようにこっちを見ている。
「パスポートですか?」と書類をバサバサめくってみた私。

ない。パスポートが、ない。一番大切な書類。私が偽りなく本人であることを証明する書類。

「パスポートはどこって言ってるのよ?」強張った表情で相手は繰り返す。

その場で足がすくんだ。これまで待ったことがこれで水の泡だと思った。

「今から取りに行って来ます」と言って、ホテルまで猛ダッシュした。部屋にパスポートが置いてあった。なんで?と思ったけれど、とにかく走って領事館に戻った。アランがホテルの変更をアドバイスしてくれなかったら、今頃、カナダの永住権を取るという夢は消えていた。

緊張して挑んだ面接は、穏やかな男性面接官だった。私の申請書と書類を見ながら「ここに書いてあることに間違いはないよね?」と言った。「その通りです。間違いはないです」とかなんとかしどろもどろになりながら答えた。突っ込んだ質問はなくて、あっさりと面接は終了。「じゃあ、これで移民審査は通ったよ」と、私のほうがかえって、「エッ?」と思ってしまった。

それから、すべてのことが動き出した。1週間後には新しい仕事でトーキョーへ。ビクトリアの家を出払った。8月にカナダに戻った。バンクーバー空港で永住許可の書類を受け取り、バンクーバーで新しい生活が始まった。

あれから12年。あの時があったから、今の自分がある。懐かしい時代。

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