Tuesday, April 20, 2010

「ハートロッカー」を見た後で。続き

社会学者のウィリアム・キャロルが「具現化」と「ヘゲモニー」について書いている。キャロルは、ネオリベラルなグローバリゼーションを推し進めるに当たり、具現化とヘゲモニーがいかに冷酷なインパクトを与えたかについて論じた。キャロルは、具現化とは各自の暮らしの中で、変えることのできない自然として捉える状態をさすと言っている。つまり、「疑問に思ったり、問題になっている生活の一部を超越するのではなく、具現化された心は物事をそのままに受け止めさせる仕組みになっている」と説いている。イラク戦争が勃発する前、アメリカ政府はイラクが大量破壊兵器を保持していること、サダム・フセインが同時多発テロに関与していたことを伝えた。また、メディアは世界貿易センターが爆破される映像を何度も何度も繰り返し流し続けた。その結果、イラク侵攻の考えが具現化された。その考えは、多くの人々によって自然化された。ヘゲモニーとは、同意による統治だとキャロルは言う。確立された力関係の中では、「支配者の興味が全体の興味に取って代わる」と論じている。イラク戦争では、アメリカ政府によるイラク侵攻が支配的なヘゲモニーとして働き、多くの国がそれを支持した。

同じくイラク戦争を題材にした映画の「リダクテッド 真実の価値」をジョン・ピルジャーは評価している。ブライアン・デ・パルマ監督のこの作品は、実際に起きたアメリカ軍によるイラクの10代の少女へのレイプとこの少女の家族の殺人を描いた映画だ。この映画には英雄が登場しない。人殺しは人殺しであり、ハリウッドとメディアの共犯で作り上げられたイラクでの犯罪が巧みに描かれているとピルジャーは論じている。この映画の最後ではイラク民間人の犠牲者の写真が流れる。「法律的な理由により」これらの写真が削除されるよう要求されたのを受けて、デ・パルマ監督は「犠牲になった人々への尊厳すら取り除かれることになるとは酷いことだ」と話した。「リダクテッド」というタイトルのこの映画の一番皮肉なところは、映画そのものが実際にリダクテッド(編集)されたことだ。アメリカ国内での限定された上映の後、この映画は消え去ったとピルジャーは伝えている。

私たちにはメディアから知らされていないことがたくさんある。私たちは真実を知らない。しかしながら、唯一つ明らかなことは、イラク侵攻が開始して以来イラク人に平和が訪れていないことだ。具現化とアメリカによるヘゲモニーが続く限り、イラクに平和が訪れることはないだろう。

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